年末調整の対象となる給与とは?2025年12月改正対応の実務完全ガイド!
このような疑問をお持ちの企業の給与担当者の方は多いのではないでしょうか。
「2025年12月の税制改正で年末調整の実務はどう変わるの?」 「どの給与が年末調整の対象になって、どれが対象外なの?」 「月次の源泉徴収と年末調整での控除適用に違いはあるの?」
令和7年12月1日から施行される税制改正により、年末調整の実務に大きな変化が生じます。特に基礎控除の見直しや新設される特定親族特別控除、扶養親族の所得要件変更により、年末調整の対象となる給与の考え方や実務処理に注意が必要です。
この記事では、2025年12月以降の年末調整対象給与について、改正による影響、企業の実務ポイント、具体的な計算例まで詳しく解説します。給与担当者の方はもちろん、年末調整を受ける従業員の方にも役立つ実践的な内容をお届けします。
年末調整の対象となる給与の基本定義
年末調整対象給与の原則
年末調整の対象となる給与は、所得税法第190条に基づき、以下の条件を満たす給与です:
主たる給与の支払を受ける人
- 年末まで勤務している人
- 年の中途で退職した人のうち、死亡による退職者や非居住者となった退職者
- 年の中途で退職した人のうち、12月中に支払を受ける給与が生活保護法による保護に相当する人
従たる給与の支払を受ける人
- 年末まで勤務している人で、他の支払者に扶養控除等申告書を提出していない人
- 年収が2,000万円以下の人
2025年12月改正による影響
2025年12月1日以降、以下の改正により年末調整実務が変更されます:
基礎控除の段階的引き上げ
従来の一律48万円から、所得に応じて段階的に最大95万円まで拡大されます。これにより、年末調整での基礎控除計算が複雑化します。
特定親族特別控除の新設
19歳以上23歳未満の扶養親族に対する63万円の控除が新設され、年末調整での控除計算が増加します。
扶養親族の所得要件変更
合計所得金額の上限が48万円から58万円(給与収入換算で103万円から113万円)に引き上げられます。
月次給与と年末調整での控除適用の違い
月次源泉徴収での控除
月次の給与計算では、扶養控除等申告書に基づいて以下の控除のみが適用されます:
適用される控除
- 基礎控除(改正後は暫定的に従来通り48万円で源泉徴収)
- 扶養控除
- 配偶者控除
- 障害者控除
- 寡婦控除・ひとり親控除
- 勤労学生控除
適用されない控除
- 生命保険料控除
- 地震保険料控除
- 社会保険料控除(給与から天引きされるもの以外)
- 小規模企業共済等掛金控除
- 住宅借入金等特別控除(2年目以降)
年末調整での控除
年末調整では、月次で適用していない控除も含めて総合的に計算します:
年末調整で初めて適用される控除
- 各種保険料控除
- 配偶者特別控除
- 特定親族特別控除(2025年12月以降新設)
- 基礎控除の段階的引き上げ分
年額での再計算が必要な控除
- 給与所得控除
- 基礎控除(所得金額確定後に段階的控除額を決定)
- 扶養控除(年間を通じての扶養親族の所得確認後)
基礎控除や各種控除の年末調整での取り扱い
基礎控除の年末調整処理
2025年12月以降の基礎控除は段階的に適用されるため、年末調整での処理が重要になります:
所得金額別の基礎控除額(2025年12月以降)
- 給与所得控除後の金額が120万円以下:95万円
- 120万円超195万円以下:70万円
- 195万円超245万円以下:48万円
- 245万円超:適用なし
年末調整での計算手順
- 年間の給与総額を確定
- 給与所得控除を適用して給与所得を算出
- 給与所得金額に応じて基礎控除額を決定
- 月次で適用していた48万円との差額を年末調整で調整
特定親族特別控除の取り扱い
対象者の確認
- 19歳以上23歳未満の扶養親族
- 合計所得金額58万円以下(給与収入113万円以下)
- 納税者と生計を一にしている
年末調整での適用手順
- 特定親族特別控除申告書の提出確認
- 扶養親族の年間所得の確認
- 年齢要件の確認(その年の12月31日現在)
- 控除額63万円の適用
扶養控除の年末調整処理
所得要件の変更(2025年12月以降)
- 改正前:合計所得金額48万円以下(給与収入103万円以下)
- 改正後:合計所得金額58万円以下(給与収入113万円以下)
年末調整での確認事項
- 扶養親族の年間所得の再確認
- 113万円の壁を超えていないかの確認
- 特定親族特別控除との重複適用の確認
企業の給与担当者向けの実務ポイント
年末調整前の準備
9月〜10月に実施すべき事項
-
従業員への制度変更の周知
- 基礎控除の段階的引き上げの説明
- 特定親族特別控除の対象者確認
- 扶養親族の所得要件変更の説明
-
申告書類の準備
- 特定親族特別控除申告書の準備
- 扶養控除等申告書の様式確認
- 基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書の準備
11月〜12月に実施すべき事項
-
申告書の回収と確認
- 特定親族特別控除申告書の内容確認
- 扶養親族の所得金額の再確認
- 配偶者の所得金額の確認
-
給与システムの設定変更
- 基礎控除の段階的計算機能の確認
- 特定親族特別控除の設定
- 扶養親族の所得要件変更対応
年末調整計算での注意点
基礎控除の計算ミス防止
-
所得金額の正確な算定
- 給与所得控除後の金額で判定
- 他の所得(雑所得等)との合算注意
- 所得金額調整控除の適用確認
-
段階的控除額の適用
- 所得区分に応じた控除額の正確な適用
- 月次との差額計算の確認
- 源泉徴収税額表との整合性確認
特定親族特別控除の適用確認
-
対象者の要件確認
- 年齢要件(19歳以上23歳未満)
- 所得要件(合計所得金額58万円以下)
- 生計一親族要件
-
重複控除の防止
- 扶養控除との重複適用防止
- 他の扶養者での重複適用防止
- 配偶者控除等との関係確認
システム対応と運用変更
給与システムの更新項目
-
税額計算ロジックの変更
- 基礎控除の段階的計算機能
- 特定親族特別控除の追加
- 扶養親族所得要件の変更
-
帳票の様式変更
- 源泉徴収票の記載項目追加
- 給与支払報告書の様式変更
- 年末調整関係書類の様式更新
運用手順の見直し
-
チェック体制の強化
- 控除適用の二重チェック体制
- 所得金額計算の確認手順
- エラーチェック機能の活用
-
従業員対応の充実
- 制度変更の説明資料作成
- 問い合わせ対応マニュアルの整備
- 申告書記載例の提供
年末調整対象外となるケースと対応方法
年末調整対象外となる主なケース
年収2,000万円超の役員・従業員
- 対応方法:確定申告での自己精算
- 注意点:源泉徴収票の交付は必要
- 実務ポイント:年収が2,000万円を超える見込みの場合は早期に本人に通知
2つ以上の会社から給与を受けている人
- 対応方法:主たる給与以外は確定申告
- 注意点:従たる給与での年末調整は原則不可
- 実務ポイント:他社での給与有無の確認
年の中途で退職した人(一部を除く)
- 対応方法:確定申告または転職先での年末調整
- 注意点:退職時期による年末調整可否の判定
- 実務ポイント:源泉徴収票の速やかな交付
年末調整対象外者への対応
確定申告の案内
-
確定申告書の作成方法
- 国税庁の確定申告書等作成コーナーの利用
- 税務署での相談対応
- 税理士への依頼
-
必要書類の提供
- 源泉徴収票の交付
- 支払調書の作成(必要に応じて)
- 社会保険料控除証明書の案内
税額計算のサポート
-
概算税額の試算
- 基礎的な計算方法の説明
- 年収の壁計算ツールの活用推奨
- 追加納税または還付の見込み
-
申告期限の案内
- 確定申告期間(2月16日〜3月15日)
- 還付申告の場合は1月1日から可能
- 電子申告(e-Tax)の推奨
具体的な計算例とシミュレーション
ケース1:年収400万円の会社員(扶養家族なし)
基本情報
- 年収:400万円
- 家族構成:独身
- 社会保険料:年間60万円
- 生命保険料:年間12万円
2025年12月以降の年末調整計算
給与所得の計算
給与収入:400万円 給与所得控除:400万円 × 20% + 44万円 = 124万円 給与所得:400万円 - 124万円 = 276万円
所得控除の計算
基礎控除:48万円(給与所得276万円のため) 社会保険料控除:60万円 生命保険料控除:4万円(一般生命保険料控除) 所得控除合計:112万円
課税所得と所得税額
課税所得:276万円 - 112万円 = 164万円 所得税額:164万円 × 5% = 8.2万円 復興特別所得税:8.2万円 × 2.1% = 0.17万円 年税額:8.37万円
実際に試算してみましょう
より詳細な計算や各種パターンでの試算は、年収の壁計算ツールをご活用ください。個人の状況に応じた正確な税額計算が可能です。
ケース2:年収500万円の会社員(19歳大学生の子1人)
基本情報
- 年収:500万円
- 家族構成:配偶者(専業主婦)、子1人(19歳大学生)
- 社会保険料:年間75万円
- 配偶者の収入:なし
2025年12月以降の年末調整計算
給与所得の計算
給与収入:500万円 給与所得控除:500万円 × 20% + 44万円 = 144万円 給与所得:500万円 - 144万円 = 356万円
所得控除の計算
基礎控除:48万円(給与所得356万円のため) 配偶者控除:38万円 特定親族特別控除:63万円(19歳の子) 社会保険料控除:75万円 所得控除合計:224万円
課税所得と所得税額
課税所得:356万円 - 224万円 = 132万円 所得税額:132万円 × 5% = 6.6万円 復興特別所得税:6.6万円 × 2.1% = 0.14万円 年税額:6.74万円
特定親族特別控除による効果
特定親族特別控除により、所得税額が約3.15万円(63万円 × 5%)軽減されます。
ケース3:年収250万円の会社員(改正による基礎控除拡大の恩恵)
基本情報
- 年収:250万円
- 家族構成:独身
- 社会保険料:年間37.5万円
2025年12月以降の年末調整計算
給与所得の計算
給与収入:250万円 給与所得控除:250万円 × 30% + 8万円 = 83万円 給与所得:250万円 - 83万円 = 167万円
所得控除の計算
基礎控除:70万円(給与所得167万円のため) 社会保険料控除:37.5万円 所得控除合計:107.5万円
課税所得と所得税額
課税所得:167万円 - 107.5万円 = 59.5万円 所得税額:59.5万円 × 5% = 2.98万円 復興特別所得税:2.98万円 × 2.1% = 0.06万円 年税額:3.04万円
改正による減税効果
基礎控除の拡大(48万円→70万円)により、所得税額が約1.1万円(22万円 × 5%)軽減されます。
従業員が知っておくべき注意点
申告書の提出期限と内容
必須提出書類
-
扶養控除等申告書
- 提出期限:最初の給与支払日の前日まで
- 変更事項があった場合は速やかに変更届を提出
-
基礎控除申告書兼配偶者控除等申告書兼所得金額調整控除申告書
- 提出期限:年末調整の際
- 所得金額の正確な記載が重要
-
特定親族特別控除申告書(該当者のみ)
- 提出期限:年末調整の際
- 19歳以上23歳未満の扶養親族がいる場合
記載時の注意点
-
所得金額の正確な計算
- 給与収入と所得金額の違いの理解
- 複数の収入源がある場合の合算
- 配偶者や扶養親族の所得確認
-
各種控除証明書の準備
- 生命保険料控除証明書
- 地震保険料控除証明書
- 社会保険料控除証明書(国民年金等)
- 小規模企業共済等掛金控除証明書
年末調整後の確認事項
源泉徴収票のチェックポイント
-
控除額の確認
- 各種控除額が正しく反映されているか
- 特定親族特別控除の適用確認
- 基礎控除額の確認
-
税額計算の確認
- 年税額と源泉徴収税額の差額確認
- 復興特別所得税の計算確認
- 年末調整による過不足額の確認
追加で確定申告が必要なケース
-
医療費控除
- 年間医療費が10万円超の場合
- セルフメディケーション税制の適用
-
ふるさと納税
- ワンストップ特例を利用しない場合
- 6自治体以上に寄付した場合
-
住宅ローン控除
- 初年度は確定申告が必要
- 連帯債務の場合の持分計算
扶養親族の所得管理
年収113万円の壁への対応
-
収入調整のタイミング
- 11月〜12月の勤務時間調整
- アルバイト・パートの収入管理
- 一時所得等の他の所得との合算注意
-
所得計算の注意点
- 給与以外の所得(雑所得等)の把握
- 非課税所得(交通費等)の除外
- 年をまたぐ収入の計算時期
まとめ
2025年12月1日から施行される税制改正により、年末調整の実務は大きく変化します。主要なポイントを整理すると:
企業の給与担当者の方へ
- 基礎控除の段階的計算機能をシステムに組み込む
- 特定親族特別控除の適用要件を正確に把握する
- 扶養親族の所得要件変更(103万円→113万円)に対応する
- 従業員への制度変更の丁寧な説明と申告書類の準備
従業員の方へ
- 新設される特定親族特別控除の対象者は申告書の提出を忘れずに
- 扶養親族の年収管理は113万円基準に変更
- 所得に応じて基礎控除額が変動することを理解
- 年末調整対象外の場合は確定申告の準備を
実務での注意点
- 月次源泉徴収と年末調整での控除適用の違いを理解
- システム更新とチェック体制の強化
- 従業員からの問い合わせ対応の充実
税制改正により複雑化する年末調整実務ですが、適切な準備と理解により円滑な処理が可能です。不明な点がある場合は、年収の壁計算ツールでの試算や税務署・税理士への相談も積極的に活用しましょう。