令和8年分から公的年金の扶養親族等申告書はどう変わる?2026年改正対応の完全ガイド
このような質問をよく見かけます。「令和8年分の扶養親族等申告書の様式が変わるって聞いたけど、どこが変わるの?」「公的年金を受給している親の申告書記載で注意することはある?」
多くの年金受給者やそのご家族が、令和8年分(2026年分)から実施される公的年金等に係る扶養親族等申告書の改正について疑問をお持ちかと思います。この改正は、令和7年度税制改正に伴って実施される重要な変更で、年金受給者の税務手続きに直接影響する制度変更です。
この記事では、国税庁の「令和7年度税制改正に関するQ&A」を参考に、公的年金等に係る扶養親族等申告書の改正内容から記載方法の変更点、年金受給者・年金支払機関が知るべき実務ポイントまで、専門的でありながら分かりやすく徹底解説します。
令和8年分扶養親族等申告書改正の概要
改正の背景と目的
令和7年度税制改正により、基礎控除の段階的引き上げ、扶養親族等の所得要件変更、特定親族特別控除の新設など、所得控除制度が大幅に見直されました。これらの改正に対応するため、公的年金等に係る扶養親族等申告書についても、令和8年分から様式と記載方法が変更されることになります。
主要な改正ポイント:
- 扶養親族等の所得要件が48万円から58万円に引き上げ
- 基礎控除の段階的適用への対応
- 源泉控除対象親族の範囲拡大
- 申告書様式の変更と記載方法の明確化
適用開始時期
新しい扶養親族等申告書は、令和8年分(2026年分)の公的年金等から適用されます。具体的には、2026年1月以降に支払われる公的年金等に係る源泉徴収から新制度が適用となります。
扶養親族等の所得要件変更への対応
所得要件の変更内容
令和8年分から、扶養親族等の合計所得金額の基準が以下のとおり変更されます:
従来(令和7年分まで):
- 扶養親族、配偶者:合計所得金額48万円以下(給与収入103万円以下相当)
改正後(令和8年分から):
- 扶養親族、配偶者:合計所得金額58万円以下(給与収入113万円以下相当)
この変更により、これまで扶養控除の対象とならなかった親族が新たに対象となる場合があります。
申告書記載への影響
新たに扶養対象となる可能性のある親族:
- 給与収入が年間103万円超113万円以下の配偶者
- 給与収入が年間103万円超113万円以下の扶養親族
- その他の所得が年間48万円超58万円以下の親族
記載時の注意点: 年金受給者が扶養親族等申告書を記載する際は、親族の年間所得見込額を新基準(58万円以下)で判定する必要があります。特に、パート・アルバイト収入のある配偶者や子の場合は、年収が113万円以下であれば扶養対象として申告できます。
基礎控除の段階的適用への対応
基礎控除額の段階設定
令和8年分から、基礎控除は合計所得金額に応じて段階的に適用されます:
基礎控除額の段階:
- 合計所得金額88万円以下:95万円
- 合計所得金額88万円超132万円以下:63万円
- 合計所得金額132万円超176万円以下:32万円
- 合計所得金額176万円超:0円
申告書での基礎控除申告
年金受給者の申告: 公的年金等に係る扶養親族等申告書では、年金受給者本人の合計所得金額見込額を記載する欄が設けられます。この金額に基づいて、適切な基礎控除額が適用されることになります。
記載例:
- 公的年金等の収入金額:200万円
- 公的年金等所得控除額:110万円
- 合計所得金額:90万円
- 適用基礎控除額:63万円
源泉控除対象親族の範囲拡大
新設される源泉控除対象親族
令和8年分から、源泉徴収時の控除計算に用いる「源泉控除対象親族」の概念が新設されます。これは、19歳以上23歳未満の扶養親族についても源泉徴収時に控除を適用するためのものです。
源泉控除対象親族の範囲:
- 控除対象扶養親族(16歳以上19歳未満、23歳以上)
- 19歳以上23歳未満の扶養親族(新たに追加)
申告書記載方法
新様式での記載: 扶養親族等申告書には、「源泉控除対象親族」を記載する欄が新設されます。19歳以上23歳未満の扶養親族がいる場合は、この欄に必要事項を記載することで、源泉徴収時から適切な控除が適用されます。
記載必要事項:
- 親族の氏名、続柄
- 生年月日(年齢確認のため)
- 合計所得金額見込額
- 同居の有無
申告書様式の具体的変更点
新様式の構成
令和8年分の公的年金等に係る扶養親族等申告書では、以下の項目が新設・変更されます:
新設項目:
- 源泉控除対象親族記載欄
- 本人の合計所得金額見込額記載欄
- 基礎控除額計算欄
変更項目:
- 扶養親族の所得要件説明文
- 配偶者の所得要件説明文
- 記載例の更新
記載手順の変更
従来の記載手順:
- 扶養親族の所得が48万円以下かを確認
- 該当する親族を扶養親族欄に記載
- 配偶者の所得が48万円以下かを確認
- 該当する場合は配偶者欄に記載
改正後の記載手順:
- 扶養親族の所得が58万円以下かを確認
- 該当する親族を扶養親族欄に記載
- 19歳以上23歳未満の扶養親族は源泉控除対象親族欄にも記載
- 配偶者の所得が58万円以下かを確認
- 該当する場合は配偶者欄に記載
- 本人の合計所得金額見込額を記載
年金受給者への影響と実務ポイント
手取り額への影響
控除拡大による効果:
- 扶養親族の所得要件緩和により、新たに扶養控除を受けられる場合がある
- 基礎控除の引き上げにより、多くの年金受給者で税負担が軽減
- 19歳以上23歳未満の扶養親族について源泉徴収時から控除適用
具体的な税額軽減例: 扶養親族1名を新たに申告できた場合(一般扶養親族38万円):
- 所得税軽減額:38万円×税率(5%〜)=19,000円〜
- 住民税軽減額:33万円×10%=33,000円
- 年間合計軽減額:52,000円〜
申告漏れを防ぐチェックポイント
扶養親族の再確認: 令和8年分申告時には、以下の親族について扶養対象となるかを再確認してください:
- 配偶者:年収113万円以下(所得58万円以下)
- 子・親族:年収113万円以下(所得58万円以下)
- 大学生等:19歳以上23歳未満で年収113万円以下
見落としがちなケース:
- パート収入が年間105万円〜113万円の配偶者
- アルバイト収入がある大学生の子
- 年金収入のある親族(公的年金等控除後の所得で判定)
年金支払機関の実務対応
システム改修の必要性
源泉徴収システムの対応: 公的年金等の支払機関では、以下のシステム改修が必要になります:
- 源泉控除対象親族の追加:19歳以上23歳未満の扶養親族を源泉徴収計算に反映
- 基礎控除の段階適用:受給者の所得に応じた基礎控除額の自動計算
- 申告書様式の更新:新様式への対応と記載内容の取り込み
受給者への説明実務
説明すべきポイント: 年金支払機関の担当者は、受給者に対して以下の点を適切に説明する必要があります:
- 申告書様式の変更:新様式の記載方法と変更点
- 所得要件の変更:58万円基準での扶養判定方法
- 源泉控除対象親族:19歳以上23歳未満の親族の記載方法
- 提出時期:令和8年分申告書の提出期限
よくある質問への対応:
- 「今まで扶養にできなかった配偶者が対象になるか?」
- 「大学生の子どもはどこに記載すれば良いか?」
- 「基礎控除額はいくらになるか?」
特定親族特別控除との関係
併用時の注意点
令和8年分から、19歳以上23歳未満の扶養親族については、扶養控除に代わって「特定親族特別控除」が適用される場合があります。
適用関係の整理:
- 年末調整・確定申告:特定親族特別控除(63万円)
- 源泉徴収時:源泉控除対象親族として計算(扶養控除相当額)
申告書記載での注意: 19歳以上23歳未満の扶養親族は、扶養親族欄ではなく源泉控除対象親族欄に記載し、年末調整時には特定親族特別控除申告書の提出が必要です。
控除額の比較
従来制度(令和7年分まで):
- 19歳以上23歳未満:扶養控除なし(0円)
改正後(令和8年分から):
- 源泉徴収時:扶養控除相当額で計算
- 年末調整時:特定親族特別控除63万円
この改正により、該当する扶養親族がいる年金受給者では大幅な税負担軽減が期待されます。
申告書提出時期と手続き
提出期限
令和8年分申告書:
- 提出期限:令和8年1月31日(年金支払機関が指定する日)
- 対象:令和8年中に支払を受ける公的年金等
遅延提出の取扱い: 期限後に提出した場合でも、年金支払機関によっては受理される場合があります。ただし、源泉徴収への反映時期が遅れる可能性があります。
提出書類
基本書類:
- 公的年金等に係る扶養親族等申告書(新様式)
- 扶養親族等の所得見込額を証明する書類(必要に応じて)
追加書類(該当者のみ):
- 特定親族特別控除申告書(19歳以上23歳未満の扶養親族がいる場合)
- 配偶者控除等申告書(配偶者がいる場合)
よくある質問と対応策
Q1: 既に提出済みの令和8年分申告書を訂正したい場合はどうすれば良いですか?
A: 年金支払機関に連絡して、訂正申告書の提出が可能かどうかを確認してください。多くの場合、年末調整に間に合うように訂正を受け付けています。ただし、期限を過ぎた場合は確定申告での対応が必要になる場合があります。
Q2: 配偶者の収入が年途中で変動する場合、どの金額で判定すれば良いですか?
A: 申告書提出時点での年間所得見込額で判定します。年途中で大幅な変動があった場合は、年末調整時に配偶者控除等申告書での最終調整を行ってください。
Q3: 複数の年金を受給している場合、申告書は全ての支払機関に提出する必要がありますか?
A: 原則として、主たる年金支払機関(最も金額の多い年金の支払機関)に提出します。他の年金については、主たる支払機関での年末調整後、必要に応じて確定申告で最終調整を行います。
Q4: 扶養親族が海外に居住している場合、申告書への記載は可能ですか?
A: 居住者であれば海外居住でも扶養親族として申告可能です。ただし、親族関係書類や送金関係書類の提出が必要になる場合があります。詳細は年金支払機関にお問い合わせください。
Q5: 申告書を紛失してしまった場合はどうすれば良いですか?
A: 年金支払機関に連絡して、再交付を依頼してください。多くの支払機関では、電話連絡により再送付の手続きを行っています。
確定申告との関係
確定申告が必要となる場合
令和8年分について、以下の場合には確定申告が必要になります:
必要なケース:
- 特定親族特別控除の適用を受ける場合
- 複数の年金支払機関から年金を受給している場合
- 年金以外の所得がある場合
- 医療費控除等、年末調整で対応できない控除を受ける場合
任意のケース:
- より多くの還付を受けたい場合
- 扶養親族等申告書の訂正を確定申告で行う場合
確定申告時の注意点
源泉徴収票の確認: 年金支払機関から交付される源泉徴収票に、申告書記載内容が正しく反映されているかを確認してください。特に、新設された源泉控除対象親族の記載有無は重要です。
控除の重複適用回避: 19歳以上23歳未満の扶養親族について、扶養控除と特定親族特別控除の重複適用がないよう注意が必要です。
税理士等専門家への相談
相談を推奨するケース
以下の場合には、税理士等の専門家への相談をお勧めします:
複雑な所得状況:
- 複数の収入源がある場合
- 事業所得や不動産所得がある場合
- 海外所得がある場合
家族構成が複雑な場合:
- 扶養親族の判定が困難な場合
- 配偶者と扶養親族の両方で申告事項がある場合
- 特定親族特別控除の適用可否が不明な場合
専門家選択のポイント
年金税務に詳しい専門家: 年金受給者の税務に精通した税理士を選ぶことで、より適切なアドバイスを受けることができます。
継続的なサポート: 税制改正の影響は数年にわたって続くため、継続的にサポートを受けられる専門家との関係構築が重要です。
システム化・電子申告への対応
電子申告の普及
マイナポータル連携: 一部の年金支払機関では、マイナポータルを通じた申告書提出が可能になる予定です。これにより、より簡便な手続きが期待されます。
デジタル化のメリット:
- 記載ミスの防止
- 提出忘れの防止
- 迅速な処理
今後の制度改正予定
継続的な制度見直し: 税制については今後も継続的に見直しが行われる予定です。年金受給者の皆様におかれましては、最新の制度改正情報に注意を払う必要があります。
まとめ
令和8年分から実施される公的年金等に係る扶養親族等申告書の改正は、年金受給者にとって重要な制度変更です。扶養親族の所得要件緩和、基礎控除の段階的引き上げ、源泉控除対象親族の新設により、多くの年金受給者で税負担の軽減が期待されます。
重要なポイント:
- 扶養親族の所得要件が58万円以下(年収113万円以下相当)に緩和
- 19歳以上23歳未満の扶養親族も源泉徴収時に控除適用
- 基礎控除が所得に応じて段階的に引き上げ
- 新様式申告書での記載方法変更
- 特定親族特別控除との適切な使い分けが重要
年金受給者が取るべき行動:
- 扶養親族の所得要件を新基準で再確認
- 19歳以上23歳未満の扶養親族の有無を確認
- 新様式申告書の記載方法を理解
- 必要に応じて税理士等専門家への相談
- 確定申告の必要性を検討
年金受給者の皆様におかれましては、この改正を機会として、ご自身の税務状況を見直し、適切な控除の適用を受けることで税負担の軽減を図っていただければと思います。
詳細な計算や具体的な適用可否については、年収の壁計算ツールの年金受給者向け計算機能をご活用いただくか、年金支払機関や税務署、税理士等の専門家にご相談ください。
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