令和8年分から給与の源泉徴収事務が大幅改正!企業が知るべき実務対応策
多くの企業の給与計算担当者から「令和8年分の源泉徴収事務はどのように変わるのか?」「システム対応はいつまでに準備すべきか?」といった質問を多数いただいています。
令和7年度税制改正により、令和8年分(2026年1月支給分)から給与の源泉徴収事務が大幅に変更されます。この改正は、基礎控除の段階的拡大、特定親族特別控除の新設、扶養親族所得要件の変更など、複数の制度変更が連動した包括的な改正となっています。
企業の給与計算実務においては、源泉徴収税額表の更新、各種申告書様式の変更、年末調整処理の変更など、幅広い対応が必要です。特に令和8年1月支給分から適用されるため、2025年中にシステム対応や実務準備を完了させる必要があります。
本記事では、国税庁の「令和7年度税制改正に関するQ&A」に基づき、令和8年分以後の給与源泉徴収事務改正の全容と、企業が準備すべき具体的な対応策を詳しく解説します。
令和8年分以後の給与源泉徴収事務改正の全体像
改正の背景と目的
令和7年度税制改正では、少子高齢化の進展や働き方の多様化に対応するため、所得税制の抜本的見直しが実施されました。この改正により、以下の制度変更が令和8年分から本格的に適用されます:
主な制度変更
- 基礎控除の段階的引き上げ(最大95万円)
- 特定親族特別控除の新設(19歳以上23歳未満の扶養親族:63万円)
- 扶養親族等の所得要件変更(48万円→58万円、給与収入113万円基準)
- 源泉控除対象親族の範囲拡大
これらの制度変更に伴い、給与の源泉徴収事務においても、税額表、申告書様式、年末調整手続きの全般にわたって改正が実施されます。
改正の施行時期と適用範囲
令和8年分(2026年1月支給分)から適用
- 源泉徴収税額表の改正適用
- 新様式申告書の使用開始
- 年末調整での新制度適用
令和7年分(2025年分)との違い 令和7年分は過渡期的対応として、12月1日以降支給分から一部制度が適用されましたが、令和8年分からは年初から一貫して新制度が適用されます。
源泉徴収税額表の改正内容
新しい源泉徴収税額表の特徴
令和8年分源泉徴収税額表では、基礎控除の段階的拡大に対応するため、税額計算の基礎となる控除額が大幅に変更されています。
主な変更点
-
基礎控除額の反映
- 従来:一律48万円
- 改正後:所得に応じて48万円~95万円の段階的控除
-
源泉控除対象親族の範囲拡大
- 従来:控除対象扶養親族(16歳以上)
- 改正後:19歳以上23歳未満の親族も含む
-
税額計算の精密化
- 所得段階に応じたより精密な税額計算
- 年末調整での調整額の適正化
源泉徴収税額表の使用方法
令和8年1月支給分から適用
- 新税額表の使用を開始
- 扶養控除等申告書の源泉控除対象親族数を基に税額を決定
- 特定親族特別控除対象者についても源泉控除対象親族として計算
実務上の注意点
- 令和7年12月支給分までは従来の税額表を使用
- 年をまたぐ賞与等の取扱いに注意
- システム更新のタイミングを厳密に管理
扶養控除等申告書の変更点
新様式の主な変更内容
令和8年分扶養控除等申告書では、新設される制度に対応するため、記載項目と様式が大幅に変更されています。
追加・変更される記載項目
-
源泉控除対象親族欄の拡大
- 19歳以上23歳未満の親族を含む範囲に拡大
- 控除対象扶養親族以外の親族も記載対象
-
特定親族特別控除対象者の明示
- 19歳以上23歳未満の扶養親族を明確に区分
- マイナンバーの記載が必要(一定の場合を除く)
-
所得見積額の記載基準変更
- 扶養親族等:48万円以下→58万円以下
- 給与収入換算:103万円→113万円
記載方法の具体例
19歳の大学生の子どもがいる場合
源泉控除対象親族欄:
氏名:○○太郎
続柄:子
生年月日:平成17年4月15日(19歳)
所得の見積額:30万円
特定親族特別控除対象者:✓
控除対象扶養親族欄:
記載なし(19歳のため対象外)
22歳の大学生の子どもがいる場合
源泉控除対象親族欄:
氏名:○○花子
続柄:子
生年月日:平成14年8月20日(22歳)
所得の見積額:40万円
特定親族特別控除対象者:✓
控除対象扶養親族欄:
記載なし(23歳未満のため対象外)
特定親族特別控除申告書の本格運用
申告書の位置づけと重要性
令和8年分からは、特定親族特別控除申告書が年末調整の必須書類として本格運用されます。この申告書は、19歳以上23歳未満の扶養親族がいる給与所得者が63万円の控除を受けるために必要な書類です。
申告書の特徴
- 扶養控除等申告書とは別の独立した申告書
- 特定親族の詳細情報とマイナンバーの記載が必要
- 電子申告・電磁的記録での提供も可能
提出時期と手続きフロー
基本的な提出スケジュール
-
令和7年中の提出
- 令和8年分扶養控除等申告書と同時期
- 通常は10月~12月に実施
-
年末調整時の確認
- 特定親族の年間所得額の確認
- 扶養要件の最終確認
- 控除額の計算と適用
-
令和8年1月以降の新規採用者
- 採用時に申告書の提出を依頼
- 中途採用者の年末調整での適用
マイナンバー取扱いの実務対応
マイナンバー記載の原則
- 特定親族特別控除申告書にはマイナンバーの記載が必要
- 16歳未満の扶養親族についてもマイナンバーが必要
記載省略の特例
- 帳簿等での管理を条件とした省略が可能
- 従業員との合意に基づく運用
- 中小企業での柔軟な対応策
基礎控除申告書の改正内容
段階的控除額への対応
令和8年分からは、基礎控除が所得に応じて段階的に適用されるため、基礎控除申告書の記載方法も大幅に変更されます。
改正後の基礎控除額
- 合計所得金額2,400万円以下:95万円
- 2,400万円超2,450万円以下:63万円
- 2,450万円超2,500万円以下:32万円
- 2,500万円超:適用なし
申告書での記載項目
-
給与所得以外の所得の詳細記載
- 不動産所得、配当所得、一時所得等
- 各所得の種類別金額
-
合計所得金額の算定
- 給与所得控除後の金額と他の所得の合計
- 基礎控除額の自動判定機能(システム対応)
-
控除額の確定
- 年末調整時の最終確認
- 過不足額の精算
配偶者控除等申告書への影響
所得要件変更への対応
扶養親族等の所得要件変更(48万円→58万円)に伴い、配偶者控除等申告書での記載基準も変更されます。
変更内容
- 配偶者の合計所得金額判定基準:48万円以下→58万円以下
- 給与収入での判定基準:103万円以下→113万円以下
- 配偶者特別控除の所得区分の調整
実務への影響
- 配偶者の年収113万円までは配偶者控除の満額適用
- 113万円超150万円以下は配偶者特別控除の適用
- 年末調整での所得確認作業の重要性向上
年末調整事務の変更点
計算手順の変更
令和8年分の年末調整では、新しい控除制度に対応した計算手順への変更が必要です。
年税額計算の新しい流れ
-
給与所得控除の適用
- 改正後の給与所得控除額を適用
-
基礎控除の段階的適用
- 合計所得金額に応じた基礎控除額の決定
- 他の所得との合算による精密計算
-
特定親族特別控除の適用
- 19歳以上23歳未満の扶養親族1人につき63万円
- 扶養要件の最終確認
-
その他の控除の適用
- 配偶者控除・扶養控除の所得要件確認
- 各種控除の重複チェック
源泉徴収簿の記載変更
新設される記載項目
- 特定親族特別控除額の記載欄
- 基礎控除額の段階的記載
- 源泉控除対象親族数の詳細記載
記載時期と方法
- 毎月の給与支払時:源泉控除対象親族数による源泉徴収
- 年末調整時:各控除額の確定と調整額計算
- 翌年1月:源泉徴収票への転記
源泉徴収票の新様式対応
記載項目の追加・変更
令和8年分源泉徴収票では、新しい控除制度に対応するため、記載項目が大幅に変更されます。
新設される記載項目
-
特定親族特別控除額
- 適用した特定親族特別控除の合計額
- 対象親族数の記載
-
基礎控除額の詳細表示
- 適用した基礎控除額(95万円、63万円、32万円、0円)
- 従来の一律表示から個別表示へ変更
-
源泉控除対象親族数の詳細
- 控除対象扶養親族数
- その他の源泉控除対象親族数(19歳以上23歳未満)
源泉徴収票の記載例
年収500万円、22歳の子ども1人の場合
支払金額:5,000,000円
給与所得控除後の金額:3,560,000円
所得控除の額の合計額:1,580,000円
内訳:
- 基礎控除額:950,000円
- 特定親族特別控除額:630,000円
源泉徴収税額:296,000円
源泉控除対象親族数:1人
内訳:
- 控除対象扶養親族数:0人
- その他の源泉控除対象親族数:1人
企業システム対応の具体的要件
給与計算システムの改修項目
令和8年分の改正に対応するため、給与計算システムでは以下の改修が必要です。
必須対応項目
-
源泉徴収税額表の更新
- 令和8年分税額表のデータ実装
- 源泉控除対象親族数による税額計算ロジック
- 段階的基礎控除額の反映
-
申告書管理機能の拡張
- 特定親族特別控除申告書の管理機能
- マイナンバー情報の安全な管理
- 電子申告対応機能
-
年末調整計算エンジンの改修
- 基礎控除の段階的計算機能
- 特定親族特別控除の自動計算
- 控除額上限チェック機能
-
帳票出力機能の更新
- 新様式源泉徴収票の出力
- 源泉徴収簿の記載項目追加
- 各種申告書の印刷機能
システム更新スケジュール
推奨スケジュール
- 2025年9月まで:システム仕様確定・改修開始
- 2025年10月:テスト環境での動作確認
- 2025年11月:本番環境への適用・従業員説明
- 2025年12月:令和8年分申告書の収集開始
- 2026年1月:新システムでの給与計算開始
ベンダーとの調整事項
- 改修範囲と費用の確定
- テスト期間の十分な確保
- データ移行方法の検討
- 緊急時の対応体制整備
移行スケジュールと準備チェックリスト
段階別準備スケジュール
第1段階:システム準備期間(2025年9月~11月)
9月に実施すべき項目
- システムベンダーとの改修内容確認
- 改修費用の予算確保
- テストスケジュールの策定
- 社内関係部署への情報共有
10月に実施すべき項目
- システム改修の実施
- テスト環境での動作確認
- 新様式申告書の準備
- 従業員向け説明資料の作成
11月に実施すべき項目
- 本番環境でのシステムテスト
- 従業員への制度変更説明
- 申告書記載方法の周知
- 質問対応体制の整備
第2段階:申告書収集期間(2025年12月)
12月に実施すべき項目
- 令和8年分扶養控除等申告書の収集
- 特定親族特別控除申告書の収集
- 申告内容の確認・不備対応
- マイナンバー情報の適切な管理
第3段階:新制度運用開始(2026年1月~)
1月に実施すべき項目
- 新税額表による源泉徴収開始
- システム稼働状況の監視
- 計算結果の検証
- トラブル対応とフォローアップ
部署別準備チェックリスト
人事部門
- 制度変更の全社周知
- 申告書様式の準備・配布
- 従業員からの質問対応体制
- 新入社員への説明資料準備
経理・給与計算部門
- システム改修の進捗管理
- 計算ロジックの理解・習得
- テスト計算の実施
- 源泉徴収票様式の確認
システム部門
- システム改修の技術的対応
- セキュリティ対策の強化
- バックアップ体制の確認
- 障害対応マニュアルの更新
法務・コンプライアンス部門
- マイナンバー取扱い規程の見直し
- 個人情報保護対策の強化
- 税務調査対応準備
- 関連法令の最新情報収集
中小企業向けの特別対応策
システム投資が困難な企業への配慮
手計算対応の実務方法
-
Excel等による計算シート作成
- 新税額表のExcel化
- 自動計算式の組み込み
- エラーチェック機能の実装
-
外部委託の活用
- 税理士事務所への委託拡大
- 給与計算代行サービスの利用
- クラウド型給与計算システムの導入
段階的導入の提案
- 令和8年分は最小限の対応で開始
- 令和9年分以降での本格的システム化
- 従業員数増加に応じたシステム拡張
マイナンバー管理の簡素化
帳簿管理による省略制度の活用
- 従業員との合意による記載省略
- 簡易な帳簿での情報管理
- セキュリティ対策の最低限実装
よくある質問と回答
Q1:令和8年分の源泉徴収税額表はいつから使用するのですか?
A1:令和8年1月支給分の給与から使用開始します。令和7年12月支給分までは従来の税額表を使用してください。年をまたぐ賞与等については、支給日基準で判断します。
Q2:特定親族特別控除申告書の提出が遅れた場合の対応は?
A2:年末調整の期限内であれば遡って適用可能です。期限後の場合は確定申告での対応となりますが、企業としては従業員への適切な案内と期限管理が重要です。
Q3:システム改修費用はどの程度を見込むべきですか?
A3:企業規模とシステムの複雑さによって大きく異なりますが、中規模企業(従業員100~500人)で100万円~500万円程度の投資が一般的です。クラウド型システムの場合は初期費用を抑えられる可能性があります。
Q4:19歳の扶養親族がアルバイトをしている場合の注意点は?
A4:年間給与収入が113万円以下(合計所得金額58万円以下)であれば特定親族特別控除の対象となります。年末時点での所得確認が重要で、113万円を超える場合は控除対象外となります。
まとめ
令和8年分以後の給与源泉徴収事務改正は、企業の実務に大きな影響を与える包括的な改正です。特に以下の点について、早期の準備と対応が重要です:
重要ポイントの再確認
-
システム対応の早期着手
- 2025年9月までの改修計画策定
- ベンダーとの密接な連携
- 十分なテスト期間の確保
-
従業員への丁寧な説明
- 新制度の理解促進
- 申告書記載方法の周知
- 質問対応体制の整備
-
段階的な導入と検証
- 小規模テストからの開始
- 計算結果の継続的検証
- 問題発生時の迅速な対応
令和8年分からの新制度は、企業の給与計算実務をより複雑にする面がある一方で、従業員の税負担軽減に大きく貢献する重要な改正です。適切な準備と対応により、スムーズな制度移行を実現し、従業員満足度の向上につなげることができるでしょう。
企業の給与計算担当者の皆様には、本記事を参考に早期の準備開始をお勧めします。不明な点については、税理士や社会保険労務士等の専門家への相談も積極的に活用し、万全の体制で新制度に臨んでください。
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