帳簿なしでも特定親族特別控除申告書のマイナンバー記載省略は可能?2025年12月実務対応の裏技解説
このような話を聞いたことはありませんか?
「うちの会社は小さくて専用の帳簿管理システムもないし、そもそも従業員から受け取ったマイナンバーを一定の帳簿で管理するなんて設備もない。でも、特定親族特別控除申告書にはマイナンバーの記載が必要で、毎回従業員に記載を求めるのは大変だ。何か良い方法はないものか...」
多くの中小企業の総務・経理担当者の方がこのような悩みをお持ちかと思います。2025年12月1日から新設される特定親族特別控除申告書では、原則として特定親族のマイナンバー記載が必要とされていますが、実際の中小企業の現場では、国税庁が想定する「一定の帳簿」の管理体制を整えることが困難なケースも多いのが実情です。
しかし、国税庁から発表されたQ&Aによって、帳簿管理システムを持たない企業でも、一定の条件を満たせばマイナンバー記載を省略できる実務的な解決策が明確化されました。本記事では、この「裏技」とも言える対応方法について、具体的な手続きと注意点を詳しく解説します。
原則:帳簿なしではマイナンバー記載省略はできない
まず基本原則を確認しましょう。特定親族特別控除申告書では、控除の対象となる特定親族(19歳以上23歳未満の扶養親族)のマイナンバー記載が原則として必要です。
国税庁のQ&A「3-5」では、給与支払者が「一定の帳簿」を備え付けている場合に限り、マイナンバーの記載を省略できるとしています。この「一定の帳簿」とは:
- 扶養親族の氏名
- 生年月日
- マイナンバー
- 住所等の必要事項
これらを適切に記録・管理する帳簿のことを指しています。
しかし現実には、従業員数名から数十名程度の中小企業において、こうした専用の帳簿管理システムを整備することは、コストや人的リソースの面で困難な場合が多いのです。
そこで登場するのが、今回解説する「合意に基づく省略方法」です。
例外:合意があれば帳簿なしでも省略可能
国税庁Q&A「3-6」では、帳簿を備え付けていない場合でも、以下の条件を満たせばマイナンバー記載を省略できることが明確化されました:
必要な条件
-
給与支払者と従業員間での合意
- マイナンバー記載省略について事前に合意を取る
- 口頭でも可能ですが、トラブル防止のため書面での確認が推奨
-
従業員による余白への記載
- 特定親族特別控除申告書の余白に特定の文言を記載
- 「マイナンバー(個人番号)については給与支払者に提供済みのマイナンバー(個人番号)と相違ない」旨を明記
-
給与支払者による確認と表示
- 既に保有している特定親族のマイナンバーとの照合
- 確認した旨を申告書に明記
-
適切な管理
- 保有マイナンバーと申告書の適切な紐付け管理
具体的な手続きと記載例
ステップ1:従業員との合意
まず、特定親族特別控除を受ける予定の従業員と事前に合意を取ります。
合意内容の例: 「特定親族特別控除申告書の提出において、特定親族のマイナンバー記載については、既に提供済みのマイナンバーを活用し、申告書への直接記載を省略する方法で対応することに合意します。」
ステップ2:従業員による余白記載
従業員は、特定親族特別控除申告書の余白(または適切な箇所)に以下のように記載します:
記載例: 「特定親族○○○○(氏名)のマイナンバー(個人番号)については、給与支払者に提供済みのマイナンバー(個人番号)と相違ありません。」
複数の特定親族がいる場合は、それぞれについて記載が必要です。
ステップ3:給与支払者による確認
給与支払者は、以下の手順で確認を行います:
-
既存データとの照合
- 過去に従業員から提供を受けた特定親族のマイナンバーを確認
- 申告書記載の特定親族情報と照合
-
確認結果の表示
- 申告書に「確認済み」等の表示
- 確認者名と確認日付を記載
確認表示の例: 「特定親族○○○○のマイナンバーについて、既提供分との照合により確認済み。確認者:△△△△ 確認日:令和○年○月○日」
ステップ4:適切な管理
確認後は、以下の管理を徹底します:
- 保有マイナンバーファイルと申告書の紐付け管理
- セキュリティ対策の徹底
- アクセス権限の適切な設定
- 保管期間の遵守
管理上の重要な注意点
セキュリティ面での配慮
この方法を採用する場合、マイナンバーの適切な管理がより重要になります:
-
データの分散管理
- 申告書とマイナンバーファイルが別々に保管される
- 紐付け情報の管理が複雑化
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アクセス制限
- 両方のデータにアクセスできる担当者の限定
- 権限管理の徹底
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照合記録の保持
- いつ、誰が、どのような方法で確認したかの記録
- 監査対応のための証跡管理
実務上の留意点
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システム化の検討
- 従業員数が増加した場合の対応
- 将来的な帳簿システム導入の検討
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年度更新への対応
- 毎年の確認手続きの標準化
- 新入社員への説明体制
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法改正への対応
- 制度変更時の迅速な対応体制
- 関連法令の定期的な確認
企業規模別の対応戦略
従業員5名以下の小規模企業
- 個別対応で十分管理可能
- 表計算ソフトでの簡易管理
- 年1回の一括確認で効率化
従業員6-20名の中小企業
- 部分的なシステム化の検討
- 担当者の明確化
- チェック体制の構築
従業員21名以上の企業
- 帳簿システムの本格導入を検討
- 専任担当者の配置
- 包括的な管理体制の構築
将来的な制度変更への備え
この省略方法は現行制度下での対応策ですが、将来的な変更可能性も考慮しておきましょう:
-
デジタル化の進展
- マイナンバーカードとの連携強化
- オンライン申告の普及
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簡素化の方向性
- 手続きのさらなる簡素化
- 企業負担の軽減策
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セキュリティ要件の強化
- より厳格な管理基準
- 監査体制の強化
まとめ
帳簿管理システムを持たない中小企業でも、従業員との適切な合意と確認手続きを踏むことで、特定親族特別控除申告書のマイナンバー記載を省略することが可能です。
重要なポイント:
- 事前の合意が必須
- 従業員による余白への記載
- 給与支払者による確認と表示
- 適切な管理体制の構築
この方法は、2025年12月1日から始まる新制度に対する現実的な対応策として、多くの中小企業にとって有効な解決策となるでしょう。ただし、マイナンバーの取り扱いには高度な注意が必要ですので、セキュリティ面での配慮を怠らず、適切な管理体制のもとで実施することが重要です。
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