「生計を一にする」の意味とは?別居でも扶養に入れる条件を詳しく解説
このような質問をよく見かけます。「大学で一人暮らしをしている子どもは扶養に入れるの?」「単身赴任中の配偶者は扶養から外れるの?」
多くの方が、扶養控除や配偶者控除を受けるための重要な要件である「生計を一にする」という言葉の意味について、正確に理解できずに不安を感じているのではないでしょうか。特に、家族が別々の場所に住んでいる場合、税務上の扶養関係がどうなるのか悩ましいところです。
この記事では、国税庁の公式見解に基づいて「生計を一にする」の正確な意味と判定基準について、様々な具体例を用いて詳しく解説します。2025年12月1日以降の税制改正で扶養の所得要件が変更されることも踏まえ、実務的に役立つ情報をお伝えします。
「生計を一にする」の基本的な意味
国税庁による公式定義
国税庁は「生計を一にする」について、以下のように定義しています:
「生計を一にする」とは、必ずしも同居を要件とするものではありません。例えば、勤務、修学、療養等の都合上別居している場合であっても、余暇には起居を共にすることを常例としている場合や、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合には、「生計を一にする」ものとして取り扱われます。
重要なポイント
この定義から分かる重要なポイントは以下の通りです:
- 同居は必須条件ではない
- 経済的な支援関係が重要
- 一時的な別居は問題なし
- 定期的な交流も判定要素
つまり、物理的に一緒に住んでいなくても、経済的に一体となった生活を営んでいれば「生計を一にする」と認められるのです。
別居でも「生計を一にする」と認められるケース
大学生の子どもの場合
ケース1:県外の大学に通う長男(20歳)
状況
- 実家:東京都、大学:大阪府
- 月々の仕送り:10万円
- 長期休暇には帰省
- アルバイト収入:年間80万円(2025年12月1日以降は扶養対象)
判定結果:生計を一にする
- 定期的な仕送りにより生活費を支援
- 休暇時には実家で起居を共にしている
- 2025年12月1日以降は年収123万円まで扶養対象となるため、扶養控除の適用可能
ケース2:下宿中の長女(19歳)
状況
- 実家から電車で2時間の大学に通学
- 週末は実家に帰る
- 生活費は親が負担
- アルバイト収入:年間50万円
判定結果:生計を一にする
- 頻繁に実家で起居を共にしている
- 生活費の大部分を親が負担
- 扶養控除の適用が可能
単身赴任の配偶者の場合
ケース3:転勤により単身赴任中の配偶者
状況
- 夫:九州で単身赴任中
- 妻と子:関東の自宅で生活
- 夫の給与は家族の生活費として家計に入る
- 月に2回程度帰省
判定結果:生計を一にする
- 経済的に一体となった家計運営
- 定期的に家族と起居を共にしている
- 配偶者控除または配偶者特別控除の適用が可能
高齢の親の介護の場合
ケース4:介護のため別居中の高齢の母
状況
- 母:介護施設に入所中
- 息子:施設費用と生活費を負担
- 週に1回面会に行く
- 母の年金:年間120万円
判定結果:生計を一にする
- 介護費用や生活費を息子が負担
- 定期的な面会により交流を維持
- 2025年12月1日以降も母の年金収入が多いため扶養対象外
- ただし、生計を一にする関係は成立
同居でも「生計を一にしない」と判定されるケース
二世帯住宅での独立した生活
ケース5:二世帯住宅に住む息子夫婦
状況
- 親世帯と息子世帯が同一建物内に居住
- 玄関、キッチン、生活空間が完全に分離
- 家計は完全に別々
- 光熱費も個別に支払い
判定結果:生計を一にしない
- 物理的には同居だが、経済的に独立
- 互いに独立した生活を営んでいる
- 扶養控除の適用は不可
経済的に独立した同居家族
ケース6:実家に住む社会人の息子
状況
- 実家で両親と同居
- 息子:年収400万円の正社員
- 家に生活費として5万円を入れる
- その他の支出は息子が自分で負担
判定結果:生計を一にしない
- 経済的に独立した生活を営んでいる
- 家計の大部分を息子が自分で負担
- 扶養控除の適用は不可
2025年12月1日以降の税制改正との関係
扶養所得要件の変更
2025年12月1日以降、扶養親族の所得要件が以下のように変更されます:
変更前(2025年11月30日まで)
- 合計所得金額48万円以下(給与収入103万円以下)
変更後(2025年12月1日以降)
- 合計所得金額58万円以下(給与収入123万円以下)
「生計を一にする」要件への影響
この改正により、これまで所得要件で扶養対象外だった親族も扶養に入れる可能性があります:
改正の影響を受ける具体例
大学生のアルバイト収入が年間110万円の場合
- 改正前:所得55万円 > 48万円 → 扶養対象外
- 改正後:所得55万円 < 58万円 → 扶養対象(生計を一にしている場合)
この場合、「生計を一にする」要件を満たしていれば、新たに扶養控除の適用を受けることができます。
実務上の判定ポイントと注意事項
判定のための確認事項
「生計を一にする」かどうかを判定する際は、以下の点を確認しましょう:
経済的支援関係
- 定期的な仕送りや生活費の援助があるか
- 学費や医療費の負担をしているか
- 家計が一体的に運営されているか
物理的・心理的つながり
- 定期的な帰省や面会があるか
- 長期休暇時の起居の共同があるか
- 緊急時の連絡・支援体制があるか
よくある誤解と注意点
誤解1:別居 = 生計を一にしない
- 正解:別居でも経済的支援があれば生計を一にする
誤解2:同居 = 自動的に生計を一にする
- 正解:同居でも経済的に独立していれば生計を一にしない
誤解3:送金額の多少は関係ない
- 正解:送金額や支援の程度も判定要素となる
書類保管の重要性
「生計を一にする」ことを証明するため、以下の書類を保管しておくことをお勧めします:
- 銀行振込の記録(仕送りの証拠)
- 学費の支払い証明書
- 医療費の領収書
- 交通費の記録(面会のための移動費用)
税務調査での対応
調査で確認される内容
税務調査では、「生計を一にする」要件について以下の点が確認されることがあります:
主な質問事項
- 別居の理由と期間
- 仕送りの金額と頻度
- 帰省の頻度と滞在期間
- 緊急時の連絡体制
準備すべき資料
- 振込明細書(仕送りの証拠)
- 家計簿や帳簿
- 交通費の記録
- 親族の所得証明書
適切な対応方法
税務調査で「生計を一にする」要件について質問された場合は:
- 事実に基づいて正直に回答する
- 客観的な証拠資料を提示する
- 不明な点は税理士に相談する
実際の税額への影響を知りたい場合は、年収の壁計算ツールで様々なケースでのシミュレーションを行ってみることをお勧めします。
まとめ
「生計を一にする」という要件は、扶養控除や配偶者控除を受けるための重要な条件です。
重要なポイント
- 同居は必須ではない:別居でも経済的支援があれば生計を一にする
- 経済的一体性が重要:定期的な仕送りや生活費負担が判定の鍵
- 定期的な交流も考慮:帰省や面会の頻度も判定要素
- 同居でも独立は別:同居でも経済的に独立していれば生計を一にしない
2025年12月1日以降の変化
税制改正により扶養の所得要件が緩和されるため、これまで所得超過で扶養に入れなかった親族も、「生計を一にする」要件を満たしていれば新たに扶養対象となる可能性があります。
実務上のアドバイス
- 証拠書類の保管:仕送りの記録や支援の証拠を残しておく
- 定期的な見直し:家族の状況変化に応じて扶養関係を見直す
- 専門家への相談:複雑なケースは税理士に相談する
家族の状況は様々で、「生計を一にする」の判定も個別のケースにより異なります。不明な点がある場合は、早めに税務署や税理士に相談し、適切な取り扱いを確認することが大切です。具体的な税額計算については、年収の壁計算ツールを活用して、様々なパターンでの影響を事前に確認しておきましょう。