令和8年分から公的年金の源泉徴収税額計算はどう変わる?2026年新計算方法完全ガイド
多くの年金受給者の方から、このような質問をよく見かけます。「令和8年分から公的年金の源泉徴収計算が変わると聞いたけれど、具体的にどうなるの?」「年金支払機関から届く源泉徴収票の金額が変わるの?」
確かに、令和8年分(2026年1月以降)から公的年金等に係る源泉徴収税額の計算方法が大幅に変更されます。この変更により、年金受給者の皆さんには新しい計算方式による影響が生じることになります。
本記事では、国税庁の「令和7年度税制改正に関するQ&A」に基づき、令和8年分以後の公的年金等源泉徴収税額計算の変更内容を、年金受給者、年金支払機関担当者、税理士、社会保険労務士の皆さんに向けて詳しく解説いたします。
令和8年分以後の公的年金等源泉徴収税額計算の改正概要
基本的な変更点
令和8年1月1日以後に支払うべき公的年金等に係る源泉徴収税額の計算における控除額が、以下の3つの要素で構成されるように改正されました。
新しい計算式
控除額 = (基礎的控除額+人的控除額-調整控除額)× 月数
この計算式により、従来の画一的な控除額から、受給者の状況に応じたより詳細な控除が適用されるようになります。
主な改正点の詳細
1. 基礎的控除額の改正
従来の基礎的控除額から大幅な改正が行われ、公的年金等の額と受給者の年齢に応じて段階的に設定されるようになりました。
65歳以上の場合
| 年中に支払を受けるべき公的年金等の額 | 令和8年分 | 令和9年分以後 |
|---|---|---|
| 242万円以下(2階部分のみの場合には163万円以下) | 公的年金等の月割額×25%+105,000円(175,000円未満となる場合は、175,000円) | 公的年金等の月割額×25%+105,000円(175,000円未満となる場合は、175,000円) |
| 242万円超(2階部分のみの場合には163万円超) | 公的年金等の月割額×25%+100,000円(165,000円未満となる場合は、165,000円) | 公的年金等の月割額×25%+75,000円(140,000円未満となる場合は、140,000円) |
65歳未満の場合
| 年中に支払を受けるべき公的年金等の額 | 令和8年分 | 令和9年分以後 |
|---|---|---|
| 213万円以下 | 公的年金等の月割額×25%+105,000円(130,000円未満となる場合は、130,000円) | 公的年金等の月割額×25%+105,000円(130,000円未満となる場合は、130,000円) |
| 213万円超 | 公的年金等の月割額×25%+100,000円(125,000円未満となる場合は、125,000円) | 公的年金等の月割額×25%+75,000円(100,000円未満となる場合は、100,000円) |
2. 人的控除額の新設
特定親族に係る人的控除額
源泉控除対象親族となる特定親族を有する場合には、その親族1人につき、52,500円の人的控除額が加算されることとなりました。
【参考:源泉控除対象親族と人的控除額】
- 一般の控除対象扶養親族:1人につき32,500円
- 老人扶養親族:1人につき40,000円
- 特定扶養親族:1人につき52,500円
- 特定親族(新規):1人につき52,500円
この改正により、19歳以上23歳未満の親族(合計所得金額が85万円以下)がいる年金受給者は、源泉徴収段階でより多くの控除を受けることができるようになります。
3. 調整控除額
特定の種類の公的年金等については、「調整控除額」として一定額が控除されます。この調整控除額は、公的年金等の種類や支給条件によって個別に設定されています。
新しい源泉徴収税額計算の具体的手順
Step 1: 基礎的控除額の算定
受給者の年齢と年金額に基づいて、上記の表から適用される基礎的控除額を算定します。
計算例:65歳以上、年金額280万円の場合(令和8年分)
- 242万円超に該当
- 月割額:280万円÷12ヶ月 = 233,333円
- 基礎的控除額:233,333円×25%+100,000円 = 158,333円
Step 2: 人的控除額の算定
扶養親族等申告書に記載された源泉控除対象親族の人数に基づいて人的控除額を算定します。
計算例:特定親族1人の場合
- 人的控除額:52,500円
Step 3: 調整控除額の確認
該当する公的年金等の種類に応じて、調整控除額を確認します。
Step 4: 最終的な控除額の算定
控除額 = (158,333円+52,500円-調整控除額)× 支給月数
この控除額を基に、源泉徴収税額を算定します。
計算例とシミュレーション(年金額別)
年金額200万円のケース(65歳以上)
従来の計算方法との比較
| 項目 | 令和7年分以前 | 令和8年分以後 |
|---|---|---|
| 基礎的控除額(月額) | 約13.8万円 | 約15.9万円 |
| 人的控除額(特定親族1人) | なし | 52,500円 |
| 年間控除額概算 | 約165万円 | 約240万円 |
年金額300万円のケース(65歳以上)
新計算方法による詳細計算
-
基礎的控除額(月額)
- 月割額:300万円÷12 = 25万円
- 基礎的控除額:25万円×25%+10万円 = 16.25万円
-
人的控除額(特定親族1人の場合)
- 月額:52,500円
-
年間控除額
- (16.25万円+5.25万円)×12ヶ月 = 258万円
年金額400万円のケース(65歳未満)
65歳未満の計算方法
-
基礎的控除額(月額)
- 213万円超に該当
- 月割額:400万円÷12 = 33.33万円
- 基礎的控除額:33.33万円×25%+10万円 = 18.33万円
-
年間控除額(特定親族なしの場合)
- 18.33万円×12ヶ月 = 220万円
従来の計算方法との比較
主な変更点の整理
| 項目 | 令和7年分以前 | 令和8年分以後 |
|---|---|---|
| 計算の基本構造 | 年齢と年金額による画一的な控除額 | 基礎的控除額+人的控除額-調整控除額 |
| 特定親族への配慮 | なし | 人的控除額として52,500円を加算 |
| 年金額による段階設定 | 簡易な2段階 | より詳細な段階設定 |
| 控除額の透明性 | 限定的 | 各要素が明確に分離 |
受給者への影響分析
プラスの影響
- 特定親族がいる世帯での控除額増加
- より所得状況に応じた適切な控除の適用
- 計算プロセスの透明性向上
注意が必要な点
- 計算が複雑化することによる理解の困難さ
- 扶養親族等申告書の記載重要性の増大
- システム対応が不十分な場合の計算誤りリスク
年金支払機関のシステム対応要件
必要なシステム改修項目
1. 計算ロジックの更新
基礎的控除額計算機能
- 年齢別・年金額別の段階設定対応
- 月割計算機能の精度向上
- 最低保障額の適切な適用
人的控除額算定機能
- 扶養親族等申告書データとの連携
- 源泉控除対象親族の正確な把握
- 特定親族の識別機能
2. 扶養親族等申告書処理の強化
データ管理機能
- 源泉控除対象親族情報の正確な入力・管理
- 年度をまたぐデータの継続性確保
- 申告書記載内容の検証機能
3. 源泉徴収票出力の改修
記載項目の追加
- 基礎的控除額の内訳表示
- 人的控除額の明細表示
- 新計算方式による税額であることの明示
システム導入スケジュール
推奨タイムライン
| 時期 | 対応内容 |
|---|---|
| 2025年9月まで | システム仕様の確定・開発着手 |
| 2025年11月まで | システム改修完了・テスト実施 |
| 2025年12月 | 新システムの本格運用開始 |
| 2026年1月 | 令和8年分計算の開始 |
年金受給者への影響分析
年金受給者が知っておくべきポイント
1. 扶養親族等申告書の重要性
従来以上に扶養親族等申告書の正確な記載が重要になります。特に以下の点にご注意ください。
記載が必要な情報
- 源泉控除対象親族の正確な情報
- 特定親族(19歳以上23歳未満)の合計所得金額
- 親族関係の詳細
2. 源泉徴収税額の変動
税額が減少する可能性があるケース
- 特定親族がいる場合
- 年金額が相対的に少ない場合
税額に大きな変化がないケース
- 扶養親族がいない場合
- 年金額が高額な場合
3. 確定申告への影響
源泉徴収段階での控除額が変更されることにより、確定申告における税額計算にも影響が生じる場合があります。
確定申告が必要になる可能性があるケース
- 複数の年金支払機関から年金を受給している場合
- 年金以外の所得がある場合
- 医療費控除等の適用を受ける場合
計算ミス防止のチェックポイント
年金支払機関担当者向けチェックリスト
計算プロセスの確認項目
Step 1: 受給者情報の確認
- 受給者の年齢(65歳以上・未満)の正確な把握
- 年間年金支給予定額の確定
- 扶養親族等申告書の提出状況確認
Step 2: 基礎的控除額の算定
- 年金額に応じた適切な段階の適用
- 月割計算の正確性
- 最低保障額の適切な適用
Step 3: 人的控除額の算定
- 源泉控除対象親族数の正確な把握
- 特定親族の要件充足確認
- 控除額の正確な計算
Step 4: 最終確認
- 調整控除額の適用確認
- 計算式の適用順序確認
- 端数処理の適切な実施
よくある計算誤りと対策
1. 年齢区分の誤り
誤りの例: 65歳になる年の年齢区分判定誤り 対策: 年金支給開始時点での年齢で判定することを徹底
2. 人的控除額の重複計算
誤りの例: 同一親族について複数の控除を適用 対策: 親族情報の一元管理と重複チェック機能の実装
3. 月数計算の誤り
誤りの例: 支給月数と控除額計算月数の不一致 対策: 支給実績との照合機能の強化
よくある質問と回答
Q1: 令和8年分から年金の手取り額は増えるのですか?
A1: 特定親族がいる場合や年金額が相対的に少ない場合は、源泉徴収税額が減少し、手取り額が増える可能性があります。ただし、個々の状況により異なりますので、詳細は年金支払機関にお問い合わせください。
Q2: 扶養親族等申告書を提出していない場合はどうなりますか?
A2: 扶養親族等申告書を提出されていない場合、人的控除額は適用されず、基礎的控除額のみでの計算となります。適用を受けるためには、年金支払機関に申告書を提出する必要があります。
Q3: 複数の年金を受給している場合の注意点は?
A3: 各年金支払機関で個別に源泉徴収税額が計算されますが、最終的な税額は確定申告で精算されます。扶養親族の重複適用を避けるため、主たる年金支払機関でのみ申告書を提出することをお勧めします。
Q4: システム対応が間に合わない場合はどうなりますか?
A4: 年金支払機関のシステム対応が遅れる場合、一時的に従来の計算方法で源泉徴収を行い、後日精算する場合があります。詳細は各年金支払機関の対応方針をご確認ください。
Q5: 確定申告で修正は可能ですか?
A5: はい、源泉徴収段階での計算に誤りがあった場合や、申告書の提出が遅れた場合などは、確定申告で正しい税額に修正することができます。
まとめ
令和8年分から実施される公的年金等の源泉徴収税額計算の改正は、より詳細で公平な税額計算を目指したものです。
改正の主なポイント
- 基礎的控除額の詳細化: 年齢・年金額に応じたより適切な控除額の設定
- 人的控除額の新設: 特定親族に対する52,500円の控除額追加
- 計算プロセスの透明化: 各控除要素の明確な分離と計算根拠の明示
年金受給者の皆さんへ
- 扶養親族等申告書の正確な記載がより重要になります
- 特定親族がいる場合は、源泉徴収税額が減少する可能性があります
- 不明な点は年金支払機関または税務署にお気軽にご相談ください
年金支払機関の皆さんへ
- システム改修と職員研修の早期実施が必要です
- 受給者への丁寧な説明と適切なサポート体制の構築が求められます
- 計算誤りを防ぐためのチェック体制の整備が重要です
この改正により、年金受給者の皆さんがより適切な税額での源泉徴収を受けられるようになることを期待しています。詳細な計算や個別のケースについては、専門家にご相談いただくか、年収の壁計算ツールで実際に計算してみることをお勧めします。