特定親族特別控除が受けられない場合とは?複数世帯での適用制限を徹底解説
「特定親族特別控除について調べていたら、適用できない場合があると書いてあったのですが、具体的にどのようなケースなのでしょうか?」このような質問をよく見かけます。
2025年12月1日から開始される特定親族特別控除制度は、低所得の扶養親族を支える納税者の負担軽減を目的とした新しい控除制度です。しかし、複数の世帯にまたがる複雑な家族関係では、控除の適用が制限される場合があります。
特に、兄弟姉妹で親を扶養している場合や、世帯をまたいだ親族関係がある場合には、思わぬ適用制限に直面することがあります。本記事では、特定親族特別控除が適用されない具体的なケースと、その判定基準について詳しく解説します。
特定親族特別控除の適用制限について
特定親族特別控除は、基本的には要件を満たす低所得の扶養親族1人につき38万円の控除が受けられる制度です。しかし、複数の納税者が同一の親族を対象とする場合や、他の控除制度との重複が生じる場合には、厳格な制限が設けられています。
制限が設けられる理由
この制限は、以下の理由から設定されています:
- 二重控除の防止:同一の親族に対して複数の納税者が控除を受けることを防ぐ
- 制度の適正運用:税制の公平性を保つため
- 税収への影響管理:過度な税収減少を防ぐため
具体的な制限パターンの詳細解説
国税庁の公式見解によると、特定親族特別控除の適用が制限される主なパターンは以下の3つです。
パターン1:複数の居住者の特定親族に該当する場合
制限内容 2人以上の居住者の特定親族に該当する親族がいる場合、その親族は、これらの居住者のうちいずれか1人の特定親族にのみ該当するものとみなされます。
具体例 兄と弟がそれぞれ独立した世帯を持ち、両方とも同じ母親を扶養親族として申告している場合:
- 母親の年間所得:25万円(特定親族の要件を満たす)
- 兄の年収:500万円
- 弟の年収:400万円
この場合、母親は兄か弟のどちらか一方の特定親族としてのみ扱われ、両方が特定親族特別控除を受けることはできません。
パターン2:配偶者特別控除との重複
制限内容 居住者の特定親族に該当する親族が、他の居住者の配偶者特別控除の対象となる配偶者にも該当する場合、その親族は、これらの居住者のうちいずれか1人の特定親族又は配偶者特別控除の対象となる配偶者にのみ該当するものとみなされます。
具体例 複雑な家族関係で、ある親族が:
- A氏の特定親族の要件を満たす
- 同時にB氏の配偶者特別控除の対象配偶者でもある
この場合、その親族は以下のいずれか一方のみに該当します:
- A氏の特定親族特別控除の対象
- B氏の配偶者特別控除の対象
パターン3:相互適用の禁止
制限内容 以下の相互適用は認められません:
- 親族同士がお互いに特定親族特別控除の適用を受けること
- 特定親族特別控除の適用を受けている親族を、さらに他の人の特定親族として適用を受けること
具体例 夫婦がそれぞれ低所得で、お互いを特定親族として申告しようとする場合:
- 夫の年間所得:20万円
- 妻の年間所得:30万円
この場合、夫が妻を特定親族として控除を受け、同時に妻が夫を特定親族として控除を受けることはできません。
実際のケーススタディ
ケース1:三世代同居家族の場合
家族構成
- 祖父(70歳):年金収入のみで年間所得15万円
- 父(45歳):会社員、年収600万円
- 息子(25歳):会社員、年収300万円
状況 父と息子がそれぞれ独立した生計を立てているが、同居している祖父を両方とも扶養親族として申告している。
適用判定 祖父は父か息子のどちらか一方の特定親族としてのみ扱われます。一般的には、より多くの扶養義務を負っている方(この場合は収入の多い父)が適用を受けることが多いですが、当事者間での協議により決定することも可能です。
ケース2:離婚後の養育費支払いケース
家族構成
- 元夫:年収500万円、養育費月5万円支払い
- 元妻:年収200万円、子供と同居
- 子供(18歳):アルバイト収入年間20万円
状況 元夫は養育費を支払っており扶養控除を受けたい。元妻も同居している子供を特定親族として控除を受けたい。
適用判定 子供は元夫か元妻のどちらか一方の特定親族としてのみ扱われます。一般的には、生計を一にしている元妻が適用を受けることになりますが、養育費の支払い状況等により判定が変わる場合があります。
適用判定の優先順位と実務対応
判定の基本原則
- 生計を一にしている納税者を優先
- 扶養義務の程度が高い納税者を優先
- 当事者間での合意を尊重
実務での対応方法
1. 事前協議の重要性 複数の納税者が関係する場合は、年末調整や確定申告の前に、誰が控除を適用するかを協議しておくことが重要です。
2. 申告書への記載 控除を適用する納税者は、申告書に明確に記載し、適用しない納税者は重複申告を避けるよう注意が必要です。
3. 税務署への相談 複雑なケースでは、事前に税務署に相談し、適用の可否を確認することをお勧めします。
変更の手続き
年度途中で適用者を変更したい場合:
- 給与所得者:翌年の年末調整で調整
- 個人事業主等:確定申告で調整
- 必要に応じて修正申告や更正の請求を実施
注意すべきポイント
1. 情報共有の徹底
家族間での控除適用状況を共有し、重複申告を防ぐことが重要です。
2. 年収変動への対応
特定親族の年間所得が要件を超えた場合の対応策を事前に検討しておきましょう。
3. 他の控除制度との調整
扶養控除、配偶者控除等の他の制度との最適な組み合わせを検討することが大切です。
まとめ
特定親族特別控除は、低所得の扶養親族を支える制度として非常に有効ですが、複数世帯での適用には厳格な制限があります。主な制限は以下の通りです:
- 複数納税者による重複適用の禁止
- 配偶者特別控除との重複適用の禁止
- 相互適用の禁止
これらの制限を理解し、家族間で適切に協議して適用者を決定することが、制度を有効活用するための重要なポイントです。複雑なケースでは、税務署や税理士に相談することをお勧めします。
2025年12月1日からの制度開始に向けて、事前の準備と家族間での情報共有を行い、適切な控除適用を目指しましょう。